2026年04月02日(木)

ばら図
伊藤 清永 (1911-2001)
本館北階段1階~2階
画家の「理想のばら」
本館の北階段1階から2階の踊り場に飾られる「ばら図」は、柔らかな温かみのある一枚です。
この油彩画は、昭和から平成時代にかけて活躍した日本を代表する洋画家 伊藤清永が描きました。
柔らかな光と豊かな色彩、幻想的な雰囲気。この絵は、モネやルノワールのような印象派の空気をまとっています。
惹き込まれる不思議な魅力は、視点により新たな「気づき」をくれるところにあります。
近くから見ると一見、色とりどりの華やかな“ばらたち”が、室内で花瓶に生けられているようにも見えます。さらによく見ると、ばらは深い緑の中に咲きほこり、柔らかな光に包まれているのがわかります。絵の下の部分に視線を移すと、そこには青があり、ばらが水面に反射しているようにも見えることから、この絵は屋外、しかも「水辺ではないか」と気づかされます。
しかし、園芸を嗜む人からすると、これほど多彩豊かな“ばらたち”が一箇所に美しく咲き揃うこのばらの配置は、現実的には難しいと感じる「夢の光景」のようなもの。だからこそ、この配色、花の配置に画家の強いこだわりと意図を感じずにはいられません。
視点を変えて遠くから眺めてみると、更なる驚きがあります。色・種類が違うはずの“ばらたち”が、まるで「大きな一輪のばら」に見えるようになるのです。ばらの明暗・色彩を巧みに操り、一輪一輪の輪郭を柔らかくすることで生まれた全体の色彩の調和には、画家の緻密に練り上げられた技巧的な遊び心を感じます。
写実的に庭の風景を映し取るのではなく、作者が思い描く「理想のばら図」の表出。
それは、「個の美しさ」と、「全体の調和」。そこに、この絵の真髄が詰まっています。
清永は東京美術学校(現 東京藝術大学)在学中から、白日会・日展を中心に活躍し、後に文化勲章を授与されました。
2001年急逝。「ばら」が絶筆となりました。
故郷である兵庫県豊岡市に「伊藤清永記念館」があります。
彼の代表的なモチーフの一つである「ばら」をぜひ富士見でご覧になってください。
高2生徒 H.S




